かえるさんレイクサイド (7)
かえるさんが町はずれを歩いていると、かえる右前あしにあしざわりのいいものがさわった。かえるさんは立ち止まって、右前あしからじんわりと立ち上ってくるあしざわりが、頭の先まで行き渡るのを待った。それから、あしもとを見た。石ころだった。碁石の形をしている。あしのひらと同じ大きさだ。表面は絹でみがいたようにつるつるで、かえるあしでさわっても、でこぼこがわからないほどしっかり詰まっていた。
かえるさんは石をあしのひらに乗せてみた。軽くはない。でも、持っていることが辛いほどではない。あしのひらだけ、地面になったみたいだ。ゆっくりとあしを掲げてみた。石が落ちそうになる。あしを傾けてなんとかバランスをとった。吸盤を使えば楽なのだが、それはなんだか反則のような気がする。かえるさんはあしを右に左に動かしながら、からだをゆらゆらと移した。
上の方でのそのそと音がした。黄色い菜の花が束になって、そのかげで赤い模様が動いていた。ナガメだった。ナガメは菜の花のカメムシで、交尾がとくいだった。いったん交尾を始めるとつながったまま長いこと動かない。のそのそ言ったのは、交尾の最中にめずらしく、ちょっと動いたからだった。
ナガメはカメムシなのでおいしくない。おいしくないものが動いたので、かえるさんは、なんだか石の感じがさっきと違うような気がしてきた。石を持ち替えてみた。今度は左前あしが地面のような感じがした。かえるさんは腰を少しずつ動かしながらバランスをとった。頭の先に地面の感じが行き渡った。ナガメは交尾を続けていた。
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