かえるさんレイクサイド (32)



雨壺山から出る初日の出で日光浴を済ませると、かえるさんは喫茶かえるに向かった。元旦は朝だけ開いていて、その日いちばんのかえるモーニングを食べることができる。うっすら白くなった伊吹山を見ながら飲むかえる水は格別なのだった。


生ぬるいかえる水を口にふくんでじっとしていると、イボのあたりで、眠いような起き出したいような、いっそ起き出したまま眠りたいような、けだるさが立ち上がる。春のけだるさだ。もちろん、いまは冬だから、体全体には伝わらない。けだるさは、低速エレベーターのように、頭に向かってゆっくりのぼっていく。コップから手を離すと、イボに向かってゆっくりと下りてくる。


そして今日のかえる水は、ぼうふらのかけらでにごらせてあった。神社でふるまわれる甘酒には五虫豊穣を祝うぼうふらがくだいてある、あの、甘辛くてぷつぷつした舌触りを、マスターがアレンジしたのだった。


体の芯で上ったり下りたりしていると、マスターが折り紙でできたうさぎをテーブルに置いて、ぺこりと頭を下げた。うさぎを開くと、それは伊吹山うらないだ。元旦の伊吹山の山肌を見て、その色合いで今年の運勢をうらなったものだ。物差しの左端は辛いで、右端は甘いとある。今年は「辛+2」だった。そういえば山は雪がまばらで、杉の白い木立ちのひとつひとつがわかりそうなほど、くっきり見える。かえるさんは舌に残ったぼうふらのぷつぷつを転がしながら、辛口の山に似合う甘辛さを探っていた。





第三十三話 | 目次





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