かえるさんレイクサイド (26)
フォトジェニックがえるはかえるさんの股を見て、まるでいま気がついたように「あら」と言った。「たいていは前なんだけど、その股だともったいないわね。」股の前もわからなかったが、後ろとなるともっとわからなかった。かえるさんがじっとしていると「はじめてでしょ。だいじょうぶよ。そういう人は好きなの」その声はかえるらしからぬ猫なで声だった。
「しばらくじっとしててね。」とフォトジェニックがえるはかえるさんの後ろにまわると、股の間から顔を出し、そのままかえるさんを葦の中へ押しやった。かえるさんの右足、左足にときどき力を入れながら、行く先を決めていく。この狭い部屋の中で、なぜ壁に行き着かないのか不思議だった。急に葦が途切れた。そこは広場で、正面に大きな鏡が立ててあった。鏡をのぞくと、驚いたことに股の下にいたのは、瞳の細い猫の顔だった。
かえるさんは腰が抜けそうになった。足の踏ん張りがきかなくなった。股だけが何かに乗っている感じだった。そこがじんじんしびれていた。何かが漏れそうだった。怖ろしいのか気持ちいいのかわからなかった。「もっと踏ん張って」猫の声が叱咤した。踏ん張っても踏ん張っても、足は空をかいているようだった。「いくわよ」股の下の生き物は、かえるさんを乗せたままぐるぐると回りだした。股から吐き気がせりあがってきた。体ごと吐いてしまいそうだった。「いく」猫の声が命令した。
何もかも真っ暗になった。何もかも真っ白だったのかもしれない。気がつくと地面に足を投げ出していた。そばにフォトジェニックがえるがいた。股がまだ少ししびれている。吸盤でさぐると、小さなイボのようなものがあった。そこだけ自分ではないみたいだった。おそるおそる鏡をのぞいてみた。かえるさんはかえるさんだった。猫の声がした。
「よく我慢したわね。たいてい後ろからやられたら途中でイッちゃって一生うらおもてがわからなくなるんだけど」そしてかえるさんの頭からあしの先までなめるように見てから「きれいに裏返ったわ。そのイボんところからよ。自分じゃわからないだろうけど」。かえるさんはもう一度イボをさわった。右左にくりくり動かすと、股がじわりと湿り気を帯びるようだった。にゃあにゃあと声がする。目の前の猫だった。もう何を言っているのかわからなかった。
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