かえるさんレイクサイド (24)



図書館からの帰り、かえる天神で涼んでいると、「よお」と声がした。番長だった。「この天神さんのかえる股、いつ見てもいいよな」番長が見ているのは、本殿の横にあるやつで、それは水蓮の花が股からわずかにはみ出しているので、奥行きがあって、かえるさんもときどき見上げて楽しんでいたのだった。


「丸えびって知ってるか?」黄昏が近づいていた。番長は本殿の縁側にすわって、足をぶらぶらさせていた。「うきよ町にあるらしい。いきのいい丸えびがぴちぴち跳ねて股をくぐるってな。丸えびってわかるよな。」番長はかえるさんの目がゆらゆらと自信なさそうに揺れるのを見て、突然立ち上がった。


「乗れよ」番長は軽く首を動かしてバイクのうしろを指した。かえるさんの目はまだゆらゆらしていたが、番長はもうエンジンをぶるんぶるん言わせていた。音はどんどん高くなっていった。乗らなければ、もっと高くなりそうだった。こわごわまたがると、番長はかえるさんの手を自分の腰に当てて「持っとけ」といった。バイクはすごい勢いで発進した。


細い迷路のような道をバイクはぐっと車体を傾けながらカーブを切っていく。かえるさんはぎゅっと番長の腰をつかんだ。地面に倒れそうな気がして、からだを無理矢理起こそうとした。「だいじょうぶだから、次からはバイクの傾く方にからだを倒せ」直線に入ると番長はかえるさんの手をぽんと叩いた。


しばらく行くと、通りの向こうが明るくなってきた。近づくと、それは色とりどりのネオンだとわかった。うきよ町だった。小さな建物がちまちまと並んで、どれもちかちかネオンを光らせていた。番長はその建物のすきまに入った。そこは暗い、小さな空き地で、荷台のついた、ごつい自転車が一台止めてあった。その横にバイクを止めると、番長は歩き出した。それから通りで振り返ると、まだ暗がりにいるかえるさんに「来いよ」と言った。(続く)





第二十五話 | 目次