「主観」レコーディング日記

May 18 2007

 京都に寄ってギターを持ち、東京に夜半過ぎに到着。宇波君と明日以降の計画を打ち合わせる。打ち合わせといっても、「まあ、なんとかなるんじゃないすかね」という安全確認のようなもの。
 「女刑事夢捜査」のアレンジが未定。宇波君と話していて、突如、服部君にアイリッシュドラムで入ってもらうことを思いつき、宿に歩きながら譜面を考える。帰ってから彼に送った譜面は以下の通り。「理想的にわかりやすい」とメールで褒められた。

四分音符=120
(前奏)
ドッカカドッカ |ドッカカドッカ |ドッカカドッカ |ドッカカドッカ |

(休み)    |(休み)    |ドッカカドッカ |ドッカカドッカ |
(休み)    |(休み)    |ドッカカドッカ |ドッカカドッカ |
カッカッカッカッ|カッカッカッカッ|カッカッカッカッ|カッカッカッカッ|
カッカッカッカッ|カッカッカッカッ|カッカッカッカッ|カッカッカッ  |
(休み)    |(休み)    |ドッカカドッカ |ドッカカドッカ ||
(四回繰り返し)

May 19 2007

 レコーディング一日目。ヒバリスタジオへ。スタジオといっても、じつは宇波君の自宅である。
 午前中から宇波君と、唄とギターによるベーシックトラックを吹き込んでいく。

 マイクは宇波君が注文後一年待ってから入手した特注のマイクで、驚異的な再現力。とくにボーカルは、ハイヴィジョンのお肌どアップくらい生々しく録れるので、気色悪いほど声の肌理が出る。
 ベーシックトラックの録音では、ヘッドホンは使わず、その場の音を耳で聞いて演奏するというシンプルなやり方。ソファに左:宇波君、右:わたしで座る。わたしはソファ上で正座。姿勢がよすぎると声を張ってしまうし、よくないとコントロールがうまくきかない、というわけで、この中途半端な姿勢をとり続ける。ただし、「あの寺に帰りたい」だけは、高音のコントロールをするために立って歌う(それでもすごく下手だけど)。
 ラップトップPCが隣の部屋にあって、HDに録音は記録されていく。冷却ファンの音がするので、録音中は部屋の引き戸を閉めなくてはいけない。宇波君が「はいいきまーす」と行って引き戸を閉めると、録音が始まる。スタジオとブースの間でガラス越しにOkとかピースとか出し合うというイメージとはずいぶん違う。

「音痴というもの」は弾き語りで1テイク。その後、
「八月三十一日」「ふなずしのうた」「坂の季節」「女学院とわたし」「能登の恋人」「あの寺へ帰りたい」など(このへん、曲順を覚えてない)宇波君・わたしで1テイクから2テイクていどで着々と進んでいく。
 「能登の恋人」は宇波君の提案で、これまでのボサノヴァではなく「フォーク」で。かえる目のアレンジは「フォークみたいな感じ」「ボサノヴァみたいな感じ」という、とてもおおざっぱな指定で決まるのだが、お互い、ボサノヴァやフォークのなんたるかをわかっていないので、結果としては珍しい演奏になってしまう。
 「高度情報化社会」も、前はボサノヴァだったのだが、軽いシャッフル気味の「(宇波君の考える)フォーク」で。ただしブリッジは変拍子でシャッフルなし。確か、この時点で7曲吹き込みが終わった。

 3時半ごろ、服部君到着。「女刑事夢操作」を三人で吹き込む。
 譜面のおかげで意思疎通は完璧である。宇波君は、マイクのうしろに立ち、ギターの気配を録音、服部君のアイリッシュ・ドラムは音量がけっこうあるので部屋の端まで下がって録音。

 5時にいったん終了。渋谷に出て杉本拓さんと合流し、富士屋で飲む。
 それから渋谷のABCで、三太コンサート。ここでバイオリンの木下君と合流。そのあと、打ち上げに混じって、杉本さんの猥談で盛り上がるうちに、とうに夜半を過ぎる。ずっと立ち飲みだったので疲れた。
 かなり飲んでいたのだが、タクシーの中で宇波君が「まだ帰ってから録れるかも」というので、二人で「パンダ対コアラ」と、あと何だっけかを一曲吹き込んだ(たぶん「リリパット」か)。木下君は撃沈。この二曲のボーカルはかなりええ感じで気色悪く録れてると思う。


May 20 2007

 二日目。昼前にスタート。
 まず、「浜辺に」を弾き語りで。やるたびに必ずどこかで間違えるのだが、この日は、1テイクでオーケー。
 それから木下くんのパートの吹き込み。
 「ふなずし」「弁慶」「坂の季節」などなど。木下君のバイオリンは「擦音」な感じがしてよい。ちゃんと弦を擦る音がするのだ。「リリパット」にはその魅力がよく表れている。「能登の恋人」はアレンジを以前とは変えたので、木下くんには歌詞にバイオリンの「アンダーライン」を入れてもらう。
 「高度情報化社会」は、最初は弓で弾いてもらうつもりだったが、木下君が音を確認しようとして弾いた低音のピチカートがすごく良かったので、そちらを鳴らしてもらう。昨夜考えた「女刑事夢捜査」のアレンジではほぼバイオリンが主役。

 三時半にはほぼバイオリンのパートは吹き込み終了。三人で大盛軒で飯を食って小休止。
 中尾さん到着。パーカッションを入れてもらう。中尾さんのパーカッションはごく微音かつシンプルなものなのだが、これで曲の雰囲気が激変する。「浜辺に」などは、シンバルの付け根のところにブラシを当ててはずすだけなのだが、これでえもいわれぬ表情が出る。
 極めつけは「高度情報化社会」のスネアで、見ていると、ただ丸い皿の前で焼きそばをひたすらかきまぜているようにしか見えないのに、音のほうは、ブラウン管の砂嵐の化け物のような生々しい音がする。アレンジの点で、「高度」は今回のベストトラックかもしれない。
 「女学院とわたし」では、中尾さんのパートを二重録音した結果、にぎやかな祭りの気分が加わった。

 最後にコーラスものをいくつか録る。「あの寺」ではモモちゃんも加わって合唱団風。
 宇波君の提案で「浜辺に」に低い声のコーラスを急遽入れることに。これが、あたかもソンブレロをかぶった気弱なメキシコ人、という絶妙な音像に。「リリパット」のクラリネットを始め、このアルバムの録音には数々の「小さい人」の気配がする。

 というわけで、9時頃には、必要な録音は終了。宇波君は、もうこの日にラフミックスをしてCD-Rを仕上げてしまうつもりになったらしく、モニタをにらんで二時間ほど格闘。その間、残りのメンバーは、勝手に曲に合わせて違う唄を歌ったり、どうでもいい話に終始。
 そして無事CD-Rが焼き上がり、全員で鑑賞。「これはもう珍盤の気配がヒシヒシと」「このボーカルはあのねのねの第一声を聴いたとき以来の衝撃」などなど、中尾さんのダハハ笑い入り発言が続発したので、間違いなく名盤となるでしょう。
 それにしてもヒバリスタジオは、既成のスタジオ概念とはまったく違う場所だが、サウンドプロダクションの効率はすばらしく高い。大きな音が出せないのが難点だが、かえる目のようなバンドにとっては理想的な場所である。もちろん、宇波君の手腕あってのことなんだけど。

 というわけで、二日でレコーディング終了。みんな、ご苦労さまでした。



kaheru