ゲバゲバマーチのつんのめり方




GEBAGEBA P!

ゲバゲバ90分!のマーチを聞いていると、必要以上にしゃっちょこばって規律正し過ぎる高度成長歩き、というのが頭に浮かぶ。クレージー映画のマーチにも感じるんだけど、普通のマーチよりも、妙にアップタイトでぐっとくるのだ。看板持って歩きたくなるのだ。この感じ、どこから来るんだろう。というのが今回のテーマ。

GEBAGEBA P!

まず、ぱっと聞いて感じるのは、すごくリズムが寸詰まりだということだ。ゲバゲバマーチのスネアドラムのパターンはタッカタータッカターと奏でられる(後の譜面参照)のだが、

この、タッの方が引き延ばされて、、の部分がすごく詰まってる感じがする。その結果、タッ次の一歩を踏み出そうと体はすでに前に倒れつつあるのに、まだ足が出ない、そんなつんのめり感があるのだ。このぎくしゃくとした、マーチ以上にマーチな感じが、なんともゲバゲバなのである。
などと情緒的なこと言ってると、ただの気のせいかもしれないので、今回、ゲバゲバマーチを波形ソフトで分析してみた。すると驚くべきことがわかった。さあ、みなさま、ガッテンしていただく準備はよろしいでございましょうか。

GEBAGEBA P!

音源は、いつも涙ちょちょ切れる編集がうれしいVAPのミュージックファイルシリーズ「ゲバゲバ90分!ミュージックファイル(VPCD-81254)」を使用した。トラック1 Opening Theme、通称ゲバゲバマーチの前奏終了直後の数小節が分析対象だ。

ライナーノートに収められたインタヴューによると、作曲の宮川泰氏の手元には残念ながらこの譜面は残っていないらしい。が、もしゲバゲバマーチの前半を譜面に書くとしたら、たぶん6/8か12/8拍子といった三連符系になるのではないかと思う。途中、あちこちに「ドドド(ドン)」と三連符のキメが入るし、メロディにも三連符がときどき使われるからだ。たとえば冒頭はこんな感じに書けるだろう。



さて、もしスネアドラムが譜面通り叩くとすれば、タッカタータッは長さが2:1になるはずだ。では実際の演奏はどうなっているか。譜面中のタッカター部分の波形を調べると下図のようになっている。



タッの長さは0.310秒と0.1秒。なんと3:1以上だ。激しくつんのめっている。これは三連系というより付点8分16分だ。やはりゲバゲバマーチはしゃっちょこばっていたのだ。

GEBAGEBA P!

しかし、ひとつ疑問がわく。メロディが3連符になるとき、タッカが付点8分16分だとうまくあわないのではないか。

じつは、ここがゲバゲバマーチの奥の深いところだ。よく見るとメロディが三連符になるのは、タッカターターの部分のみだ。つまり、スネアドラムがタッカとつんのめっているところでは三連符は演奏されず、ターと伸ばしているときに三連符が演奏されるのだ。先の譜面ではの部分がこれにあたる。したがって、あの印象的な「ドドド(ドン)」という三連符のキメも、ドラムのつんのめりを思い煩うことなく、フォルテッシモで存分にキマる。その部分の譜面を見てみよう。



つまりタッカでぎゅっとつんのめって、ターでやや浮く。片足がつんのめりつつ、もう片足がやや力が抜ける。その抜けたところを突くように「ドドドドン」とキメが入る、というわけだ。この、まさに歩くスラップスティック的状況の中で、聴き手はこけつまろびつ、そのくせ前にはぐんぐん進むという、奇妙な推進力に導かれていく。

GEBAGEBA P!

スネアドラムによって、リズムがタッカターの緊張と弛緩を繰り返す。このことがよく表れているのが、ドドドドンの直前、トランペットがメロディを奏でるの部分だ。トランペットはタッカタッカ、と吹いている。しかし2つのタッカは同じではない。この部分を波形で見てみよう。



2つのタッカが三連符と16分音符の間を揺れていることがわかる。スネアがタッカと刻んでいるときは、トランペットもつんのめってタッ:カが3:1に近くなっている。いっぽう、スネアがターとつんのめりから解放されているときは、トランペットはやや力が抜けてタッ:カは2:1寄りになっている。

つまり、わずか一小節の中で、トランペットのメロディは伸縮しているのだ。タッカは、スネアドラムに引っ張られ、スネアドラムから解放され、十六分音符と三連符の間を揺れ、この緊張と弛緩の連続によって、必要以上に足がしゃっと上がり、逆足が解放されてちょこっと進み、しゃ、っちょこ、しゃ、っちょこと奇妙な前進が続くのだ。ドドドドン。

GEBAGEBA P!

かくして、つんのめり脱力しつんのめり脱力し、およびでないのにどどどどんとしゃしゃり出るゲバゲバのリズムに導かれ、われらゲバゲバ人類は看板を手に土手をずんずん進むのであった。

そして、そんな人類のギクシャクした歩みを高みから指示しているものこそ、「ゲバゲバP」の「P」の音だ。この音は当時のアポロ11号と地球との交信音をサンプリングしたものだという。まったく宇宙は油断がならない。きっと音楽は宇宙から来たウイルスなのだ。

GEBAGEBA P!




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