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20030914







 朝、クリニャンクールの市で青山さんと軽く絵葉書。ほんとうはここだけで何軒も回る場所ががあるのだが、そろそろ財布も軽くなってきたのでごく軽く。

 そこからPassage Vendromeに移る。青山さんがダゲレオタイプを買うというのでおつきあい。
 手すさびに、壁に沿って並んでいるDoverの本を漁る。意外に楽しい。Doverのペーパーバックは、著作権フリーのものが多くて、十数年前はコラー ジュ遊びをしたりドレの絵物語を読むために何冊か買っていたのだが、あちこちで入手できることもあって、近頃はあまり気にとめてはいなかった。
 しかし、18,9世紀のさまざまな事物に興味がわいてきた今になってみると、単なる図像リソースとしてよりも、むしろ文献として使えるラインアップがあ ることに気づいた。たとえば16世紀に出たオランダ人の手による「Perspective」という本は、文章こそ少ないものの、その作図内容は、ルネッサ ンス期に流行していた透視図法の様子をかいま見ることができる。単に水平線を設定する一点透視図法だけでなく、水平線のない天井や階段を描いたものもあ り、さらに、中心をずらせてのぞきこむように描かれていておもしろい。

 Doverの魔力は、見返しにずらりと並んだ関連本のリストにある。これはamazon.comでいうところの「この本を買った人にはこんな本も おすすめ!」というやつで、一冊数ドルからせいぜい20ドル代という価格帯もあって、つい、もう一冊買い求めたくなるしくみになっている。そのずらずらと 並んだタイトルを見ていくと、なんとAndrea Pozzoの名前があるではないか。あの、ローマのサンティナーツィオ教会の奇跡のような天井画を描いた人だ。彼の本がDoverのペーパーバックになっ ているとは知らなかった。

 店番に在庫を調べてもらったがあいにくなかった。そのときちょっと覗いたら、平棚の向こうは一間ばかりの物置になっていて、そこに在庫がずらりと並んでいる。ちょっとだけパサージュの裏側を見せてもらった感じ。

 店番のアドバイスに従って(旅先では人のアドバイスに従うことにしている)、シャトレに移動してArtemへ。狭い店だが、頭上高くまでずっと 本。表のDoverの棚になかったので店番の女性に題名を言うと、迷いなくArchitectureのところに行ってさっと取りだしてくれた。まるで使い 慣れた書架から取り出すように素早いので驚く。

 その素早さに乗っかって宿に戻り、カフェでビールを飲みながらPozzoのことばをつらつらと読む。Pozzoの図法じたいはルネッサンス期に完 成されたもので、特に新味はない。しかし、それが単なる理論ではなく、神の業を人の業に写したものとして書かれているのが興味深い。
 ラテン語で書かれた「デザイン」ということばは、de-signate、つまり指し示すという機能を表わす。デザインとは、建築 architecture と事物 figures を使って摂理を指し示すこと。

 昨日と同じポルトガル料理屋に今度は四人で行き、同じメニュー(二人分)を注文。四人で食べてちょうどだった。やはり昨日あれを二人で食ったのは無謀だった。

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