朝食。あいかわらず80年代ポップス。今日のBGMは「ラジオスターの悲劇」。
昨日買ったチケットが二等席になっていたので一等に交換してもらいに中央駅へ。二等より一等が少し安全、とのことなので。まあ、物盗りに会う会わないは、多分にうかつさの問題だとは思うが、少なくとも自分のうかつさはかなり信用できない。
新市街へ。昨日と同じ店で、Piwo&internet。
旧市街のワルシャワ歴史博物館へ。入口は狭そうに見えるが、中は隣三軒くらいをぶち抜いて作ってあって、しかもフロアがいくつもあり、かなり広い。先史時代から第二次大戦直後までのワルシャワの歴史。戦争前後の資料はかなり充実しているが、戦後の話がほとんどないあたりが、なんともポーランドの複雑さを感じさせる。
夕方、広場に面したHerbata(喫茶)からいい匂いがしてくるので入ってみる。入口から進んで見回すと、みつはしちかこが描きそうな天使の絵が壁のあちこちにかかっている。BGMはリチャード・クレイダーマン。選択を誤ったかなと思ったが、引き返すには歩を進めすぎてしまった。
席についてメニューをずっと読んでいく。観光客が多いのだろう、英語の解説が書いてある。ココナッツとパイナップル入りのセンチャ、というのがある。ここワルシャワで熱帯の果実と日本の煎茶がいかにして出会うのであろうか。ほとんど想像がつかないので頼んでみる。
「ロリータ」を読みながら待つことしばし、律儀そうな店の娘がポットとともに置いてくれたカップには、Behold! 桜の花びらに金枝が描かれていて、注がれたのは確かに煎茶色、しかも早くもココナッツの匂いがぷんと立ち上がってくる。飲もうとすると、湯気はカップの大きさで鼻と口の入口をおおって、ココナッツの蒸しタオルで顔を蓋されたような甘い予感に包まれる。カップを傾けて少し口に含むと、予想に反してまず来るのは果物の酸味だ。それをえげつないと感じずに済むのは、ココナッツとパイナップルが熱帯方面ですばやく手を結ぶからだろう。ココナッツ経由でまんまと滑り込んできたパイナップルの酸味にぎゅっと舌を丸めると、入れ替わるようにセンチャの渋味が、リチャード・クレイダーマンのリリカルなピアノにのって顔をのぞかせる。酸味は渋味に、渋味は酸味に、鏡を傾けるように切り替わる。リチャードの右手がパイナップルなら、左手のアルペジオはセンチャである。壁にかかったみつはしちかこ天使が静かに目をつぶっている。
そうか、これが「世界がゆっくりナボコフ色に染まっていく(c)若島正」ってことなのか。
ポットにお湯をつぎ足してもらって存分に飲み、すっかり長居する。
宿にいったん戻って、夜、Tiger Klubというアメリカンな名前のRestauracje。タマネギを練り込んだパンをあぶってニンニクオイルにつけて食う。これがなんともうまい。スープもかなり驚き。食い物うまいではないか、ポーランド。サラダ、スープ、メインをそれぞれ一皿ずつ頼んで二人で分け、ビールも飲んで満腹。しめて約80ズォチ。