19990810昨日買ったJ.タレルの本に載っていたKijkduinへ。とりあえずvvvに行って聞いてみると、結構距離がある。これは自転車旅行だな。デン・ハーグの詳しい地図を買って自転車を飛ばす。1時間くらいで行けるはずが、途中でパンク、そうか、自転車にはこのトラブルがあったんだった。自転車屋を尋ねてまわって結局逆行。「すいません、パンクを直したいんですが。」「いいよ、明日とりに来て」「明日じゃだめなんです。これ貸し自転車で今日中に返さないと」「無理だね、時間がないし。そこに修理道具売ってるから自分でやったら?」はいはい、人に頼らず自分でやります。というわけで路上パンク修理。一ケ所直してさあ発進と思ったら、また空気がもれてる。ええい。今度は路上の水たまりにタイヤをひたして慎重に見ると、もう一ケ所あった。やれやれ。また途中でパンクすると困るので空気入れも買う。やけくそでミッフィーの自転車ベルも買う。さあ、これであと10回はパンクしても大丈夫だ。 Kijkduinあたりに着くがなかなかタレルの作品とわかるものがない。とりあえず海岸に出る。降ったりやんだりの全天曇空だ。天気のせいもあるだろうが、浜には人気がない。帆が2つ3つ見える。ハーグ派の海。手前から潮の色が濃くなっていき、水平線に近いあたりで突然薄くなっている。それが空のように見える。潮と潮の境目が水平線になって。遠い汽船はわずかに空に浮いて見える。 浜の後ろの丘にはレストランと真新しいアーケードが並んでいる。シュヘーフェニンゲンに比べると小規模だ。 公園の案内所でようやく場所がわかる。駐車場のそばだ。なるほどそれらしいトンネルが坂の上に見えるが、標識のたぐいはない。知らなければ通り過ぎてしまいそうだ。あたりはほとんど砂地だが、砂丘というほどではなく、アザミや黄色い花があちこちに咲いている。まっすぐ坂を上っていくと、トンネルの中にようやくこの場所に関する説明のパネルがある。といっても、J. Tarellの名前と、中央のブロックでの寝転がり方、その結果空がいかにドーム状に見えるかなどが書いてあるだけ。簡素なものだ。 とにかく寝転がってみよう。ブロックは足の側がやや上に向いたベッド状で、仰向けになると、頭が少し下になる。その結果、ドームのエッジが逆さまに見える。さてパネルの解説通りドームに見えるか。一見すると、何の変哲もない空だ。しかし、エッジに注意しながら天頂と地平線の間を往復すると、まず天頂が低く感じられてくる。地平線近くは、エッジよりもかなり向こう側に見える。雲のテクスチャと風による雲の移動のせいで、いつも見ている空のありようが思い浮かんでしまう。 こういうときは時間をかけてゆっくり見た方がいいのはパノラマ館で経験済みだ。しばらくぼんやりと見続ける。首を横に傾けると、やや濃い雲が上に移動してくるのが見える。その上への移動を手掛かりに、空の平面をエッジのあたりに近い面としてこちらに引き寄せる(引き寄せる、というと力づくみたいだが、空までの距離を測りかねて感覚が揺らぐときにより近いと感じる感覚を選択する、くらいの意味だ)。エッジより少し向こうでドームができてきた気がする(エッジと空のドームの関係は、ちょうど見物台のエッジとパノラマ画くらいの感じだ)。その感じをキープしながら、今度は首を仰向けに傾けて真後ろのエッジが少し見えるところで止める。エッジの明るさが強調されて感じられ、遠いだまし絵で蓋をされたようだ。この感覚をキープしながら天頂に向かうカーブはこちらを圧迫するようにより低くなる。 このとき、エッジを散歩する人がいて、魚眼レンズを下から覗いているような奇妙な風景になった。自分のまわりで、空のすぐそばを人が歩いているような感じで、これがいちばん気持ち良かった。 結局、感覚は最後まで安定しなかったが、空の雲という空間的なものを表面的なものと見紛うこと、そのとき、エッジおよび天頂の距離は、エッジのどこをどのように見るかによって変化することがわかった。タレルの論によれば、立っているときの方が寝ているときいよりも空が低く見えるらしいのだが、これは感じ方次第でけっこう変わる。平均値を取れば経っているときの方が低いかもしれないが。 とかなんとか考えているうちに5時。電車に遅れてはいけない。自転車を飛ばす。どうもまだ少し空気もれしているようなのだが、もう直している暇がない。Vruchtenb uurtの墓地あたりまでは快調に飛ばしていたんだけど、Zuiderparkのカテドラルを越えたあたりで完全に方向感覚を失ってしまう。この辺は道が斜めに交差していてトリッキーなのだ。ああ、もう6時の鐘が鳴っているよ。走れメロス。あちこちで人に道を聞きながらようやくレンタサイクル屋に戻る。宿へダッシュし、荷物をかかえて、店主にドアを開けて貰って再ダッシュ、駅に着いたら出発2分前だった。 夜行でアムステルダムCS→Duisburg→シュトゥットガルド。寝台で一緒になったのは東大の学生で、一人はドイツの民家研究、一人は風力発電の研究をしているという。ドイツの民家研究はグリムの頃の民俗学ブームあたりからかなり行われていて、計測図面が図書館にけっこう残っているんだとか。二人は瓶詰めのピクルスをうまそうに食っていた。 |