- 19990227
- ▼今度のがほんとうの、エネルギー注入音(鉄腕アトム「音の世界」)▼カプセルの朝は早い。すでに重くなった紙袋を抱えてこの上、朝っぱらから神田で買い物をしようというのか。いうのだ。両腕が抜けそうなほど買う。▼浮世絵屋で三枚続を繰っていて手が止まる。五代目菊五郎の役者絵。必要な絵だ。が、構図がおもしろくない。資料価値を除けば、でかいだけの絵だ。値段も張る。とりあえず、頭を冷まそうと思い、一枚摺りを繰る。ほら、こっちにあるやつの方がずっといい絵だ。この夜、この灯、この眺め、こんな値段で手に入るよ。▼すると、さっきぼくが繰ってた横で眺めていたおっさんが、妙に気合いの入った繰り方で三枚続を物色しはじめる。思わずぎょっとする。こやつ、さっきぼくが手を止めた絵が気になったのではないか。ぽんとあの値段の金をはたく気じゃないか。おっさんあかんで。その先にある絵はおっさんには必要ない、ぼく以外の人には何の価値もないで。▼うつむきながらおっさんに念じるが、三枚続から離れない。だめだ、もう我慢ならん。思わず店員に「すいません」と声をかけて買ってしまう。やれやれ。芳年が2、3枚買える値段なのに。
▼郵送を頼んでいる間に絵草紙の棚を見ていると、女性の二人連れが入ってきて、しばらくあちこち見てから片方が「すいません、この方は外国からいらして、日本の古い漫画のような本を探しているのですが」と店員に尋ねている。店員の人は定石通り「北斎漫画」を見せる。もう片方の女性は、おもしろそうに北斎漫画を繰るけど、値段にのけぞっている。古い漫画を探して浮世絵の店に入ってくるのがおもしろいと思って、声をかけて、好みを聞いてみる。文字がある程度書いてあって、あまり血なまぐさくないやつで、できればカラーで、とのこと。絵草紙をいくつか見せたら、やはり値段にのけぞっている。編集本でもいい、というので、単行本コーナーにあった国芳のハードカバーを勧めた。もしや漫画家かと思ってたずねると、「animation cartoon」を作ってる、だって。いやじつはぼくはカートゥーン音楽のWWW作ってるんです、と言うと銀座でやってる「スーザン・ピット展」という葉書をくれた。連れの女性はちょっと英語が苦手そうだったので、近くの喫茶店までおじゃまする。彼女の作品ではカートゥーン音楽のコラージュのような部分があるらしい。詳しい話を聞きたかったけど、作品を見ないうちはなんともいえないし、彼女は時差ボケと歩き疲れと連日のインタヴュー責めで辛そうだったので、あとは、えー、iMac何色かったんですかー?てな他愛ない話をして、その上映会には是非行くと約束して別れる。
▼浅草へ。本覚寺の蟇明神(かえるみょうじん)には瀬戸物のかえるだらけ。持ってかえっていいですよ、と住職さんに言われる。足を片方欠いておくと、かえるが逃げないので願いがかなうという。かなったら足の欠いたかえるをここに戻しにくるとよい、らしい。「エヴの歌」。鈴木千香子さんの声をほとんど目の前で聞く。西洋の発声ってとても人間の身体から出てる声とは思えないすごい音。口蓋と舌でフランス語のeuに近づくと、微かに倍音が鳴る。それが高い天井からはねかえってくる。フォーレのしっとりとした歌からドビュッシーを経てプーランクの軽みへと至るプログラムも楽しい。▼それにしても、フォーレの「エヴの歌」って神を相手にエロ三昧、エロを相手に神三昧、えげつない歌でおます。▼おお、神聖で清らかな泉よ、草はおまえの液体の光を吸い、雌鹿や鳩はおまえの中で渇きを癒す。そしておまえは花と苔におおわれた、ゆるやかな坂を、もとの大海へと下って行く。(エヴの歌/「生ける水」より)▼こういうのをぬけぬけと歌うフランス歌曲ってすごい。それを目の前で歌われているこの状況もすごい。
▼Pamela Z、榎本氏、Yukoさんと染太郎。Pamelaにはパンカツがえらいウケてた。
▼東中野のBOXへ。え、スーザン・ピットってアスパラガス撮った人なの?で、P.ゲイブリエルの「BIG TIME」も。▼影絵とピープショーが交錯する「アスパラガス」「ジェファーソン」おもしろし。何重にも幕がしつらえられた舞台をぶち抜いていくイメージ。小杉さんの音楽が使われてた。最近作はちょっとしんどかったけど、女が水にぶかぶか浮くあたりはぐっときた。あ、あのギターはマーク・リボー?
|