月別 | よりぬき
その最後には、極つたように、一個の美麗な花輪を映出して、終幕を知らせたものである。
この花輪というのは、催主にして見ると、いわゆる取つて置きの一品で、それだけにすごぶる手の込んだもので、価格からしても、他の種板に較べると、数倍に上つたものらしい。これが仕掛けは赤の一枚と青の一枚 −色は他に二三あった− 細線に依つて渦巻式の花模様を現したもので、これを甲乙二枚取合はせ、糸と小車の動きに連れて、互違いに回転するように作られてある。さてそれを幕に映してハンドルを回す時は、一は内面に向かつて収縮する如く、一は外面に向けて散開するようで、全く目も眩むばかり、実に美麗不思議なものであった。
満場の観客は、この花輪の映し出されるのをきつかけに、さも名残惜しく、思い思いに座席を立去るのであるが、花輪の動きの美しさと、今夜の楽しかつた思いに心を牽かれて、なおも見惚れる者も少なくなかつた。あたかもこの花輪は、観客全部の退場するまで、依然として回転を続けながら、観客の後姿を、静かに見送るかのように思われた。
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